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旭川家庭裁判所 昭和59年(少)542号 決定

少年 S・Y(昭四四・五・一五生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

第一非行事実

少年は、

一(1)  Aと共謀のうえ、昭和五八年六月二八日午前四時ころ上川郡○○町○○××番地有限会社○○駐車場において、同所に駐車中の同会社代表取締役B管理に係る普通乗用自動車(車体番号HS××-××××××)一台(時価五万円相当)を窃取した、

(2)  公安委員会の運転免許を受けないで上記日時ころ上記場所付近道路において自動車登録ファイルに登録されておらずかつ自動車損害賠償責任保険の契約が締結されていない上記自動車を運転した、

(3)  C、Dと共謀のうえ、同年八月七日午前二時ころ名寄市○○××番地E方車庫内において、同所に駐車中の普通乗用自動車(旭××ゆ××××号)内からE所有に係る現金一五〇〇円入りの小銭入れ一個を窃取した、

(4)  Fと共謀のうえ、同月一一日午後五時ころ名寄市○○×丁目先路上において、同所に駐車中の普通貨物自動車(旭××て××××号)内からG所有に係る現金一七一一円入りの財布一個、同人の自動車運転免許証及び原動機付自転車用錠(名寄市な××××号)一個を窃取した、

(5)  同月二七日午前九時ころ名寄市○○町××番地前路上において、H子所有に係る自転車一台(時価二万円相当)を窃取した、

(6)  公安委員会の運転免許を受けないで同年九月九日午後二時四〇分ころ名寄市○○×丁目付近道路において原動機付自転車(名寄市な×××△号)を運転した、

(7)  Iと共謀のうえ、同月一九日午前一一時五五分ころ名寄市○○×番地J方前路上において、同所に駐車中の普通貨物自動車(旭××ぬ××××号)内から○○産業有限会社代表取締役K管理に係る現金九五七〇円入り集金かばん一個を窃取した、

(8)  同年一〇月一三日午後一時四五分ころ名寄市○○×丁目○○寺庫裡台所において、同寺住職L所有に係る現金二万二〇〇〇円を窃取した、

(9)  同月二一日午前一〇時二五分ころ名寄市字○○×番地×名寄市立○○中学校二階二年一組の教室内において、同級生のM(当一四年)に対し同学年生であるN(当一四年)と一対一で殴り合いのけんかをするように命じたが同人がこれに従わなかつたことに憤激し、同人の左頬を右手拳で一回殴打する暴行を加えた、

(10)  同日午前一〇時三〇分ころ同中学校二年一組横の三階に通じる階段の踊り場において、Nが、陰で自己の悪口を言つているものと誤信しその仕返しのため、同人に対しその顔面を手拳で数回殴打し、更に左右の足で両ももを数回蹴り上げるなどの暴行を加え、よつて同人に対し加療一週間を要する顔面挫傷の傷害を負わせた、

(11)  同年一一月七日午前一一時三〇分ころ名寄市○○×丁目○子方において、同人所有の現金三万円を窃取した、

(12)  同月一八日午後零時三〇分ころ名寄市○○×番地P方前路上において、同所に駐車中の普通乗用自動車(旭××あ××××号)内からP所有に係る現金六〇〇〇円入り集金かばん一個を窃取した、

(13)  同月二〇日午後零時三〇分ころ上記(11)記載のO子方において、同人所有の現金二万〇〇四〇円を窃取した、

(14)  同年一二月一日午後五時ころ名寄市○○×丁目Q方車庫内において、同所に駐車中の普通乗用自動車(旭××ろ××××号)内から、Q所有に係る現金一三〇〇円入りの財布一個を窃取した、

(15)  Rと共謀のうえ、同月三日午後一一時ころ名寄市○○×丁目○○電気工業株式会社駐車場において、同所に駐車中の普通乗用自動車(旭××そ××××号)内からS所有に係る現金一四〇〇円を窃取した、

(16)  Rと共謀のうえ、上記(15)記載の日時場所において、同所に駐車中の普通乗用自動車(旭××そ×××△号)内からT所有に係る現金一〇〇円を窃取した、

(17)  Rと共謀のうえ、同年一二月九日午前五時ころ名寄市○○×丁目○○教会内において、同教会役員U管理に係る現金五〇〇円入りさい銭箱一個を窃取した、

二  保護者の正当な監督に服さず、かつ昭和五九年三月二一日にはキャッシュカードを使用して保護者の預金口座から三〇万円を引き出したうえ家出し、京都、東京方面を転々と放浪するなど正当な理由もないのに家庭に寄りつかないものであつて、このまま放置すればその性格、環境に照らし将来罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をするおそれがあるものである。

三  なお、本件において上記一の犯罪事実のほか同二においてぐ犯事実を認定したのは以下の理由による。

(1)  少年保護事件において送致された犯罪事実とぐ犯事実との間に事実の同一性が認められる場合には、前者が後者に優先し、また、両事実の間に同一性が認められない場合にも当該犯罪行為が少年のぐ犯性の直接的現実化(ぐ犯性を余すところなく顕在化させたもの)と認められる場合には、ぐ犯事実は犯罪事実に吸収され、ぐ犯事実を独立して審判の対象とすることは許されないと解される(ぐ犯の補充性)。

しかしながら、犯罪事実とぐ犯事実との間にこのような優先関係又は吸収関係が認められない限り、犯罪事実とは別個独立にぐ犯事実を認定し、これを少年審判の対象とするのが相当である。

(2)  これを本件について見るに、本件送致に係る犯罪事実とぐ犯事実との間には、事実の同一性がなく(したがつて優先関係は生じない。)、また、両者の間には次のように吸収関係を認めることもできない。

すなわち、少年には上記一で認定した犯罪行為の以前から保護者の正当な監督に服さず、保護者の管理する現金を持ち出して費消したり、友人宅等を無断で泊り歩き、あるいは家出するなどのぐ犯事由が認められ、このような状況は上記犯罪行為が発生した昭和五八年一二月ころまで継続して存在していたものであり、事実、上記一の犯罪行為の大部分は少年の無断外泊や家出中に敢行されたものであつて、これらはいずれも少年のぐ犯性の直接的現実化と評価し得るものである。しかしながら、上記二で認定したぐ犯事由は、本件一連の犯罪行為が終了した約三箇月後に、家庭裁判所から少年審判期日に出頭を求められた少年が矯正処分に対する不安、恐怖心と保護者の下を離れて独立、自活しようとの気持から、予定された審判期日の前日に父親の預金口座から多額の現金を引き出したうえ京都、東京方面にまで逃避行を続け、所持金がなくなつた後も各地を転々と放浪していたというものであつて、従来見られた家出、外泊行為とは明らかに質的な相違があり、この間少年のぐ犯性も深化していることが認められる。したがつて、上記二のぐ犯事実は上記一の犯罪行為に吸収されるものではなく、これとは別個独立のものとして評価するのが相当である。

第二法令の適用

第一の一の(1)、(3)、(4)、(7)及び(15)ないし(17)の各事実につき 刑法六〇条、二三五条

同 (2)の事実につき 道路交通法六四条、一一八条一項一号、道路運送車両法四条、一〇八条一号、自動車損害賠償保障法五条、八七条一号

同 (5)、(8)及び(11)ないし(14)の各事実につき 刑法二三五条

同 (6)の事実につき 道路交通法六四条、一一八条一項一号

同 (9)の事実につき 刑法二〇八条

同 (10)の事実につき 刑法二〇四条

第二の事実につき 少年法三条一項三号イ、ロ

第三処遇の理由

少年には小学校低学年当時から保護者の管理する現金を無断で持ち出して費消するなどの問題行動が見られたが、昭和五四年ころからはゲーム代や飲食費欲しさから単独あるいは同年令の少年と共謀して多数回にわたり駐車中の自動車から現金等を窃取するいわゆる車上狙いをするようになつた。これらの非行は、小学校六年時に一時止んだものの少年が中学校に入学した夏ころから再発し、さらにそのころからは怠学や無断外泊あるいは深夜徘徊をくり返し、保護者の監督にも服さず再三家出をして補導されることが重つた。少年がこのような非行、問題行動をくり返すようになつたのは、養父との関係がしつくりいかずこれに対する反抗やまた学業について行けず学校内で問題児視されていることへの反発などによるものと考えられるが、これらの非行を反覆継続するうち、しだいに非行自体を自己目的化させ、現在では、これらの非行についてかなりの常習化、習癖化が認められる。また、非行態様も最近では単純な車上狙いから住居侵入盗へとしだいに悪質化して来ており、また傷害等の粗暴事犯をも犯すようになつて来ている。

一方、本件犯行の大部分は既に触れたように深夜徘徊中あるいは家出放浪中のものであり、したがつて少年の再犯を防止するためには何よりも規則正しい生活習慣を身に付けさせ、同時に規範意識を覚せいさせることが肝要であるが、少年の保護者は、このように再三にわたつて家出、非行をくり返す少年の監督に疲れ果て、保護者としての自信を完全に喪失して少年の引取り自体をも拒否するに至つており、一方、少年の在学する中学校でももはや在学生としての教育、指導の限界を超えているとして少年の復学に消極的である。また、少年の性格等に照らしても、少年がこれら保護者や教師の指導、監督に従うものとも思われない。

したがつて、少年の健全育成を図るためには、少年を早急に矯正施設に収容し、基本的な生活習慣と健全な価値観を醸成するための強力な働きかけを行うことが必要である。

よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を適用して少年を初等少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 窪田もとむ)

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